故郷のみかん
佐藤春夫
友のこれを送りて新年の詩を求められたるに應へて
聞說(きくならく) 碓氷の嶺に
立ち並ぶ三つの宮あり
み熊野のわかれの社(やしろ)
證(あかし)には確氷の宮の
お祭の宵宮の夜を
人知らぬ鳥あり來り
み社に竹柏(なぎ)の葉を供へまつると
我こそは紀の国人ぞ
年々の年のはじめを
友ありて心をくばり
交〻(こも〴〵)に贈り給へり
ふるさとの甘きみかんを
さながらに碓氷の梛か
陋屋(あばらや)を社(やしろ)と云はば畏れ(おそれ)あれども
底本:『定本 佐藤春夫全集』 第2巻、臨川書店
初出:1952年(昭和27年)1月1日発行の『紀南新聞』に掲載
(入力 てつ@み熊野ねっと)
熊野皇大神社(長野県北佐久郡軽井沢町大字峠町碓氷峠1):全国熊野神社参詣記
2015.9.2 UP