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御影の淵

那須晴次『伝説の熊野』

稲成

 稲成村字糸田高山寺の河岸に大樟樹がある。その下は明治二十二年の大水害以前までは一碧の深淵であったが水害後水脈が次第に変わり今は河床高くなり水はその東部を流れて居り御影の淵通称楠木の淵が名のみとなつて居る。

 この樟樹の傍に一石碑があつて碑面には■淵との大書が刻んである。また裏面には左の文がある。高祖弘法大師、嘗て慈貌をこの淵に照し手ずから肖像を彫り以てこれを留む。今微雲館に安置せる所これなり。故を以てこの淵■淵の号あり、先師義護碑を樹つるの志あり。壇越某及び老■智白、 財を捨ててこれを営まんと欲せしが未だ果さずして皆没せり。予深く遺感となし、今為めに篤志を紹ぎ碑を樹てて以てこれを表し、併せて銘す。銘に曰く「■々たるかの石、蒼々たるこの淵、光明道徳深くして旦つ■し」

 時任嘉永三歲次庚戌春高山寺主三世義汎謹書(原漢文)

 ここを御影淵又は■淵というは昔弘法大師が熊野参詣の途次おのが姿をこの淵の水に映して自像を彫刻せしによっての名であることは碑文に示すとおりである。その像は即ち高山寺の本奪として祀られて居るのがそれであるという。かの様な古跡であるに青淵が砂積と化し石碑は路傍に底脚が埋まって実に見る影もないのは惜しい事である。

 

(入力 てつ@み熊野ねっと

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2019.7.14 UP



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