み熊野ねっと分館
み熊野ねっと

 著作権の消滅した熊野関連の作品を公開しています。

 ※本ページは広告による収益を得ています。

津波の村

那須晴次『伝説の熊野』

新庄

 僕の故郷新庄村の大潟神社は今小山の丘のこんもりと茂った森の中にある。僕等七、八歳の時にはよくこの境内で角力をとったりして遊んだものである。この神社は今より八十年程前は今の村役 場のある所であった。

 ところが天保の大地震の時である。この神社に奉仕している神主がある夜ふとした夢に神様が現はれて「この一、二ケ月程後にはきっと大地震が我が地方に起り新庄村は大津波に襲われて村民は大難儀する。早く村民にこの事をしらせ、我が神体をも高い小山に遷せ。」と厳に仰せられた。

 初めは神主も半信半疑であつたが三夜続けて同じ夢を見た。神主もよくよく不思議に思って「ひ ょっとしたら事実の事であるまいか、しかし今村民に知らせると大層大騒ぎをすることであらう。」と考へてある夜こっそりと御神体を今の小山に遷された。

 一月は早や過ぎた。しかし未だにその地震が起らない。ところが二ケ月程たったある夜大音響と共に大地震が突発した。同時に我が村は大津波となり村民の悲鳴の声三日四夜つづき全村の家といわず倉といわず流れて荒野となった。神主はつくづくこの神様の有難きことをさとり早速地震後その小山に神社を造営した。今も村民は非常にこの神を崇めている。

 

(入力 てつ@み熊野ねっと

2019.7.14 UP



ページのトップへ戻る