望郷曲
佐藤春夫
ふるさとはみんなみの国
みな月の青葉ににほひ
かがやかに照る日のもとに
たちばなの花さきしかげ
われをよぶつぶらひとみの
ミニヨンにまがひしひとは
早く世にあらずなりぬる。
さすらひの二十年(はたとせ)ののち
海近き丘のふもとに
みいでたる杉の木の間は
おくつきに照る日もくらし
みんなみの国にはあれど
ミニヨンにまがひしひとは
早く世にあらずなりぬる。
底本:『定本 佐藤春夫全集』 第1巻、臨川書店
1938年(昭和13年)10月5日、中央公論社より刊行された『東天紅』に収録
(入力 てつ@み熊野ねっと)
2015.9.1 UP