早春の賦
佐藤春夫
=御歌所御題に因みて=
風さむくして人多し
都を好しと誰か云ふ
わがふるさとは名にし負ふ
牟婁の郡の春早し
★
年のはじめをいち早く
山べの椿園の梅
南枝(なんし)はほころびうぐひすも
外山(とやま)に出でて歌ふらん
★
黒潮洗ふ浜べには
松の下かげあたたかに
美人の折るを待たずして
水仙ひとり香ににほふ
★
野山のみなみ雑草(あらくさ)も
なべて希望を培ひて
花咲かん国を夢みたり
海に鯨も婚(まぐは)ひて
底本:『定本 佐藤春夫全集』 第2巻、臨川書店
初出:1956年(昭和31年)1月1日発行の『紀南新聞』に掲載
(入力 てつ@み熊野ねっと)
2015.9.2 UP