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丹鶴城

佐藤春夫

 

これ水野氏の丹鶴城
昔は三万六千石
今はわが父の裏山となる

少年のわがよき遊び場
竹を切り木の枝に攀ぢ
蝶を追ひ小鳥を捕りき

本丸は茅化(つばな)ほうけて
笹原に鶯鳴きぬ
蔦もみぢ石垣ゆるみ

わが友のいま二の丸に
營めるホテルあり
風光を天下に誇る

多謝すわがお城山
美をわれにむかし敎へき
柏亭は「滯船」を描き

われらが師よさのひろし
なつかしくここに歌へり
聞けや淸きしらべを

碑(いしぶみ)に彫(ゑ)らまはしきは
「高く立ち秋の熊野の
海を見て誰ぞ涙すや
城の夕べに」

 

底本:『定本 佐藤春夫全集』 第2巻、臨川書店

初出:1956年(昭和31年)1月29日発行の『週刊読売』(第一五巻第五号)に掲載

(入力 てつ@み熊野ねっと

与謝野寛:熊野の歌

2015.9.3 UP



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